創造性にする認知心理学的なアプローチは、従来、洞察問題の解決や科学的発見過程などの研究が中心であったが、本研究では、今まであまり研究が進んでいない芸術的創作活動に焦点を当て、認知心理学的な手法を用いて、創作プロセスを詳細に解明することを目的とした。そして、山水画家が寺社やアトリエで山水画を制作する過程を、延べ30日以上の期間にわたり観察し、このフィールド観察やインタビューのデータに基づいて、画家の知識や技術、および山水画の制作過程について検討した。さらに、色紙絵の描画の様子をビデオで記録し、描画過程の詳細な分析を行った。 研究1と2では、画家の知識を調べるため、画家がインタビューに応じて話した内容と教授場面で学生に説明した内容を分類し、カテゴリー化を行った。その結果、知識は「絵の描き方のストラテジー」、「絵の評価基準」、「絵を描くときの心構え」の3つに大きく分類された。また、インタビュー場面と教授場面では、報告された知識の内容はおおむね一致していたが、若干の違いも見られた。研究3では、ビデオ記録に基づいて色紙絵の描画過程の分析を行い、外的制約の役割の分析や空書行動の分析を行った。その結果、画家が描画の際に、他者の描いた落書きの線を積極的に利用してアイデアを生成していること、空書行動が描画において重要な役割を果たしていることなどが示唆された。
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