研究概要 |
イギリス16-18世紀に発明された科学(自然哲学)実験器具--顕微鏡、望遠鏡、真空ポンプ、磁気羅針盤、ライデン瓶など--を中心に据え、それらが科学/医学、視覚芸術、美学、文学、哲学、政治、宗教などの学問諸領域において果たした役割や与えた影響を検証することによって、新しい18世紀(啓蒙期)イギリス文化像を探った.科学史上、特別な器具を用いて実験的に研究をするという形態は、17世紀に誕生した近代科学が生み出した主要な変化のひとつである.科学実験器具の発明は、多くの場合、科学史上のひとつのエピソードとして扱われ、隣接学問領域や一般大衆文化との相関関係に対する目配りは極めて不十分なものであった。顕微鏡に関して言えば、誰によってどこでこの器具が発明されたかという紹介ではなく、光学器具を用いて不可視の世界を観察することの形而上学的意義、哲学や文学、解剖学や細菌学にあたえた影響、実験観察結果を示す図版等が視覚文化の中で占める位置等々、顕微鏡が18世紀イギリス文化全体に及ぼした意義を総合的に捉えることを試みた.Henry Power, Experimental philoso-phy, Robert Hooke, Micrographia, George Adams, Essays on the Microscope ; Micrographia Illustrata, Henry Baker, Microscope Made Easyなどの綿密な解読を通して、それらを取り囲む諸領域に及ぼした影響また諸領域間の相関関係を詳細に分析・検討した,そうすることにより、今日的視点からは断片的で細分化されたものとしてしか映らない当時の文化の諸相が、その根底では相互に依存し合い・協力し合いながら18世紀イギリス文化を形成していた様子を明らかにした.その過程で、とくに18世紀啓蒙期における巡回科学者による公開科学実験と科学的知識の伝播および教育の問題、文字化された実験結果・成果(解説)とそれを伝える視覚芸術(絵画・図像など)つまり「言葉とイメジ(絵)」の親密な関係について明らかにした。
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