研究概要 |
前年度からはじめた研究「Moral Decision and Information Aversion」を大幅に改定し、論文集の一章として出版した。利己的合理的個人の仮定をはずし、適応的学習と道徳的判断を考慮したモデル化を試みた。Immediate Gratification,Multiple Selvesに関連する心理学上の事実をもとに数理モデルを作り、その理論的帰結を導いた。帰結主義的な道徳的判断と、社会ルールに基づく道徳的判断の違いをより明確にし、経済主体の行動決定にどのように関わるかをよりクリアにした。主に経済学者外の研究者にたいして、この研究が既存の経済学の分析枠組みとどの程度関連しているかを、よりくわしく説明した。 社会的選択の誘導可能性問題を、適応的学習の長期的安定という解概念をつかって、分析をはじめた。Abreu and Matsushima(1992,Econometrica)に代表される既存の研究では、経済主体が合理的であり、しかも一回限りの社会的決定において誘導可能性を考察した。この研究では、経済主体が繰り返し、メカニズムを利用することによって、長期的にのぞましい配分を達成できるかどうかを論じた。その結果、非常に単純なメカニズムを設計するだけで、広範囲の社会的選択関数を分権的に誘導できることを証明した。現在執筆途中であり、タイトルは「Stable Implementation」とすることを予定している。 また、繰り返しゲームにおいて、限定合理的個人ないしは情報が過度に限定されている経済主体がいかに協調関係を維持しうるかを考察した。関連する論文をいくつか作成、出版したが、より本基盤研究に関連する研究は、次年度にプリンストン大学アブルー教授との共同研究として、具体的にスタートする。
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