研究概要 |
量子物理学や幾何学に現れるSchrodinger作用素に対する散乱問題を中心にして,散乱現象ならびにそれに関連するスペクトルの逆問題に関する理論的研究を行った.大きな成果として双曲多様体上での逆スペクトル理論という新しい研究方向を開拓したことが挙げられる.これまで多次元における境界値問題や散乱の逆問題への接近法としては,複素幾何光学あるいはFaddeevのGreen関数を用いる方法しか知られていなかったが,研究代表者は双曲多様体への埋め込みによる方法という新しい手法を発見した.この方法によりFaddeevのGreen関数が双曲多様体上のFloquet作用素のGreen関数に置き換えられ,幾何学的意味が明瞭になった.またユークリッド空間における境界値逆問題と双曲多様体上での境界値逆問題が同値であることが示されたことにより,ユークリッド空間における境界値逆問題の結果が双曲多様体上にそのまま拡張された.新しい成果として,例えば算術曲面のように無限遠が尖点である場合のSchrodinger作用素のスペクトルデータの導入とそれによるリーマン計量の局所的変形の再構成という幾何学的逆問題が解決された.さらにユークリッド空間における応用としてディリクレ-ノイマン写像を境界の小さい部分で知ることにより境界付近でのポテンシアルや電気伝導係数を同定するという逆問題を解決した.これはこの種の問題を無条件で解決したものとしては初めてであり,その理論的応用的価値は非常に大きい.また双曲幾何学の現実的問題への応用としてみても数学的に非常に興味深いものである.これらの結果は2つのプレプリントInverse spectral problems on hyperbolic manifolds and its applications to inverse boundary value problems in Euclidean space, Hyperbolic geometry and local Dirichlet-Neumann map (joint work with G.Uhlmann)として現在投稿中である.
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