研究概要 |
量子固体の一つである固体パラ水素を媒質に用いると、気相と同程度あるいはそれ以上の分解能でその中に捕捉した分子の振動・回転分光ができる。この固体水素内にフリーラジカルやイオンなどの化学的に活性な分子を生成すると、まわりの水素分子と例えばX+H_2→XH+Hなどの反応を起こす場合がある。系が5Kという極低温であるにもかかわらず反応が進行することから、これは純トンネル化学反応によるものであると考えることができる。そこで本研究では、固体水素中では量子化された振動回転準位の高分解能分光が可能であるという特徴を活かして、このラジカルなどの振動回転線を高分解能分光の手法を用いて追跡することにより、通常は熱反応機構の陰に隠されてしまうため観測の不可能なトンネル化学反応過程を直接観測すると共に、そめ量子レベル依存性の解明など他では得られない新たな情報を得ることを目的として研究を進めた。具体的には重水素化したヨウ化メチル(CD_3l, CD_2Hl, CDH_2lなど)の紫外光照射により生成するメチルラジカル(CD_3, CD_2H, CDH_2)から、メタンが生成する反応を調べた。メチルラジカルの振動回転線の減衰からトンネル反応速度を5×10^<-6>/sと求めた。しかしながら、生成するメタンの速度が、2×10^<-6>/sとラジカルの減衰よりも2倍以上遅いという奇妙な事実を見いだした。また3ミクロン程度の赤外光を照射し続けることによって反応速度が倍以上になることを見いだし反応速度の量子状態依存性が大きいことを明らかにした。現在これらの詳細な解析を行っているところである。
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