研究概要 |
低温下での観察と電気物性が同時にできる装置を製作して,構造と電気物性(特に誘電損率)の測定・観察をおこなった.まず,凍結した超純水を試料として基礎的な傾向をつかみ,ついで,氷晶の形態を定量化する目的で果糖水溶液を凍結させた試料を用いた. 実験は,ITO膜を二枚のガラス面に蒸着して作成した電極に試料をはさみ,氷晶の観察と電気物性が測定できる装置を製作して用いた.超純水をもちいて,可視光で粒界が確認出来ない状態の氷(単結晶氷)と,急冷してできた多結晶氷のそれぞれについて一定の氷点下温度で保持して,氷晶の様子と誘電損失スペクトルを測定した.その結果,単結晶氷の誘電損失スペクトルには経時変化が見られなかったが,多結晶氷の場合は氷晶が粗大化し,誘電損失スペクトルのピーク周波数が高周波側にシフトすると共に,誘電損率の値も大きくなることが分かった.ついで,純水を凍結させた多結晶氷からは氷晶の幾何的特徴が定量化できないことから,30wt%程度の果糖水溶液を試料として円柱状の氷晶を生成させ,純水の場合と同様に一定の氷点下温度に保持して,氷晶の固相率,平均粒径や粒界長さの密度と誘電損失スペクトルを測定した.その結果,固相率が一定に保たれたまま,平均粒径は大きく,粒界長さの密度は低くなり,それらの変化とほぼ1対1の関係で誘電損失スペクトルのピーク周波数が高周波側にシフトすると共に,誘電損率の値も大きくなることが分かった.氷晶の構造のうち,何が誘電損失スペクトルのピーク周波数の変化に反映しているか調べる為に,測定された電気物性をCole-Coleプロットで記述した.その結果,測定された誘電損失は緩和型の損失であり,損失のピーク周波数の変化は静電場における誘電率が時間と共に上昇していることが原因であることが分かった.
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