研究概要 |
本研究の目的は,炭化水素燃料火炎帯中のC2ラジカル強度比と熱力学的温度の相関を,量子論や分子動力学的に理論的に理解することである.従来の研究や昨年度の研究成果では,自発光の絶対強度や測定系の一般性について議論されていない.そこで,本年度はさまざまな測定系で同一の火炎条件でのC2ラジカルの自発光強度比を測定することで,熱電対で測定された熱力学温度の相関の一般性についてまず調べた.また火炎中に存在する化学種の発光や光吸収と局所的な熱力学的温度の関係を数値解析的に求める手法の確立を目的として,炭化水素燃料火炎中に存在するCOの吸収スペクトルを分子動力学法を用いて解析する手法をさらに発展させた.その計算手法により,局所的な系に温度勾配が存在する場合の影響,系中に微小液滴が存在する場合の影響について計算機実験的に調べた.実験としては,火炎中発光スペクトルのうち,C2スワンバンド中の473.7nm付近の発光強度,516.5nm付近の発光強度,563.6nm付近の発光強度の比を得るために,予混合火炎の局所領域からの光を光ファイバーと分光器を用いて計測した.0.70nm^2とO.08nmの二つの分解をもつ分光器と光電子増倍管およびバンドパスフィルタから構成される分光装置の三つの計測系を用いて,火炎局所領域からの発光を分光計測した.C2スワンバンド中の三つの発光バンド強度比を調べた実験結果より,473.7nm付近の発光強度と563.6nm付近の発光強度比が火炎中の熱力学的温度と相関がよいことが分かった.これらの強度比について量子論的な振動準位の遷移確率を計算し,自発光強度比と振動温度比との関係について理論的に考察した.結論としては,熱電対で計測した熱力学的温度はC2の振動温度とは異なるため,自発光強度比から算出した温度は定量的には熱力学温度とはならないが,温度に関係する一つの重要な指標であるといえる.
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