研究概要 |
我々は,固体窒素を高温超伝導マグネットの冷媒に用いるという独自の視点で研究を行い,極めて有用な成果を得た。固体冷媒による冷却には,昇華したガスの対流による方法と,固体冷媒と冷却対象を直接接触させて個体の熱伝導によって冷却する方法の2通りがある。固体の高い熱容量値と熱伝導特性を有効に使うには後者が適しているが,一般に固体冷媒は冷却対象との熱接触が極めて悪いためほとんど研究されていなかった。本研究では,この熱接触改善法を提案し,ビスマス系高温超伝導テープを用いた実験で検証した。以下に,得られた成果の要約を示す。 ビママス短尺テープを用いた研究 (1)テープに過大な電流通電および熱擾乱印加を行った際,ドライアウト現象(固体窒素冷媒と冷却対象との熱接触が無くなる現象)が印加した擾乱の蓄積エネルギーによって起こることを見出した。 (2)ドライアウトエネルギーには最小値が存在し,それ以下の擾乱エネルギーでは実質的にドライアウトが起こらないことを見出した。 (3)冷凍機による伝導冷却を採用し,窒素を液体状態から極めてゆっくりとした冷却速度にて固化することにより,冷却対象との熱接触が格段に向上することを明らかにした。数値シミュレーションの結果,同方法で作製した固体窒素の熱伝達率が従来の減圧法によるものに比較して5倍以上向上することを明らかにした。 (4)(3)で作製した固体窒素をさらに1.5気圧程度に加圧すると,ビスマステープから発生する損失が抑えられることを見出した。 ビスマスコイルを用いた研究 (1)ビスマステープを用いてソレノイドコイルを製作・実験し,短尺テープと同様の結果が得られることを確認した。 (2)コイルに臨界電流の1.8倍もの過大電流を通電した際,真空中では熱暴走するような状況下においてさえも,固体窒素中ではほとんど損失の発生しないことを明らかにした。 以上より,固体窒素冷却高温超伝導マグネット開発のための基礎を確立することができた。
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