研究概要 |
圧電・強誘電性をもつフッ化ビニリデンと三フッ化エチレンの共重合体P(VDF/TrFE)の一軸延伸膜を常誘電相で結晶化するすると,無限にのびた伸長鎖結晶からなる高度に2重配向した「単結晶状膜」ができる.この膜には次の3つの乱れが存在する:(i)分子鎖上のコンフォメーションの乱れ;(ii)結晶内での分子鎖の配列の乱れ;(iii)伸長鎖結晶の分極軸(b軸)が膜法線から±30°を向くことによる(110),(110)面を分域壁とする双晶ドメインの存在.これらの乱れのない真の単結晶膜を作成し,圧電・力学物性を向上させる目的で本研究を行い,次の結果を得た. (1)上記(i)の欠陥はキュリー温度直下の温度で熱処理,または室温でのポーリングで解消し,キュリー点が顕著に上昇した.(2)(ii)の欠陥は,常誘電相で長時間熱処理すると解消した.常圧でよりも高圧高温下での方がより効果的であった.この処理で分子鎖軸(c軸)およびb軸の配向秩序がともに顕著に向上した.また,圧電共振から求めた延伸軸(分子鎖軸)方向の音速V_<11>が顕著に向上した.V_<11>は10Kで10.0km/s,295Kで6.0km/sと大きい.ヤング率Y_<11>はそれぞれ,203GPa,71GPaである.これほど大きい弾性率を示す高分子膜は他に例を見ない.圧電率も大きい.(3)(iii)の欠陥はb軸を膜面に平行に配向させると解消する.このため,単結晶状膜を約200枚積層し,膜面に垂直,分子鎖に平行に切断して得た薄板の法線方向に高電場を印加して分極化した.X線回折からb軸は膜面に平行に配向したことが分かった.ただし,積層膜の接着部での絶縁破壊が生じ易く,薄板全面にわたるb軸配向は未成功である.このため圧電結合係数k_tも0.2と小さい. 本研究では真の単結晶状膜の作成が可能であることを実証できた.今後,所期目的をより完全に達成するよう研究を進める.結果の一部は国有特許申請の予定.
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