研究概要 |
無侵襲的かつリアルタイムに脳機能の変化を調べることができる近赤外分光法による脳血液量測定法,生体内ストレスの生化学的指標である唾液中のコルチゾール定量,及び電子瞳孔計による自律神経系の計測法を用い,食品タンパク質及びその分解物であるペプチドがもつストレス感受性や学習記憶など,ヒトの脳機能における調節作用を客観的に評価した。供試料として大豆タンパク質,大豆ペプチド,コラーゲンペプチド,食物繊維(プラセボ)を用いた。被験者(N=10,20〜26歳の男子学生)には測定開始時刻の2時間前に試料を飲んでもらい,人工気候室で測定を行った。パソコンを用いたパフォーマンステスト(計算,文字消去,短期記憶の3種)を行い,その間の脳血液動態,脈拍,血圧を測定した。作業実施順序及び各種課題の呈示順はランダムとした。実験の前後には感情尺度評価テスト(POMS)と電子瞳孔計による瞳孔径等の測定を行った。また,綿球を用いて唾液を採取し,酵素免疫測定法によるコルチゾール定量用の試料とした。大豆ペプチド摂取時,酸素結合型ヘモグロビンのわずかな上昇がすべての課題でみられた。大豆タンパク質,コラーゲンペプチド,食物繊維の摂取時には,課題毎に様々な動態を示したが,食物繊維はすべての課題において他の試料と比べて高い値を示した。ほとんどの被験者で唾液中のコルチゾール濃度は測定後に減少し,その程度は大豆タンパク質,大豆ペプチド,コラーゲンペプチドにおいて食物繊維よりも大きかった。前3者の摂取によって初期状態の瞳孔面増加の抑制や散瞳速度の最高値増加の抑制などがみられたことから交感神経の抑制が示唆された。以上の測定結果から、食物繊維以外のタンパク質とペプチドには精神的鎮静作用があることが示された。この作用は,タンパク質に特有のペプチドではなく,むしろアミノ酸による働きである可能性が高い。
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