研究概要 |
短期絶食および食餌性脂質が宿主の感染抵抗能におよぼす影響をモデルに,感染に伴うサイトカイン,ホルモンおよび神経伝達物質の産生および分泌の変動を調べ,感染防御能とこれら内分泌系の働きとの相関関係におよぼす栄養の影響について検討した。その結果,感染初期の絶食により防御能が強く抑制される反面,感染時に絶食による体力の消耗があっても,感染直後からの復食により防御能がすみやかに回復することを見いだした。この機構には,免疫系のみならず絶食や復食による内分泌系の変動が大きく関与していることが示唆された。例えば感染直後からの復食に伴うコルチコステロンとACTH(共に細胞性免疫を抑制する)の血中濃度の急激な低下が,感染防御能をすみやかに回復させる一因であることが示された。一方,脂肪酸組成の異なる6種類の油脂(大豆油,パーム油,大豆油+EPA,大豆油+DHA,パーム油+EPA,パーム油+DHA)のいずれかを摂取したマウスのうち,パーム油+DHA摂取マウスで,感染抵抗能の低下が生じた。この結果は,パーム油とDHAという2つの要素の組み合わせが感染抵抗能の低下を導くことを示している。このマウスの肝臓や脾臓の脂質構成脂肪酸分析から,DHA濃度の増加と共に,抗炎症作用や免疫反応に強く影響を及ぼすエイコサノイド(プロスタグランジンE2,ロイコトリエンB4)の基質であるアラキドン酸の濃度の顕著な低下が,抵抗能の低下の一因であることが示唆された。またこのマウスでは感染に伴う脾臓のIFN-γ産生量および肝臓のIL-β産生量の増加が他の油脂摂取マウスより高く,これら過剰産生されたサイトカインによる宿主への二次的な障害も示唆された。
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