《目的および方法》樹木の樹皮は、現在まで有効なリサイクル法がなく、焼却処分により炭酸ガスを発生させていた。このような木質系廃棄物中に含まれる炭素成分を有効な工業生産用の原料とみなし、炭酸ガスとして放出させることなく、セラミックスの構成成分として固定化することを試みた。手法として、セラミックス等の大量生産が可能な燃焼合成(SHS)法を用い、木質系廃棄物と金属チタン粉末の混合物から工業的に有用な炭化チタン(TiC)セラミックスを直接的に合成した。さらに、木質系廃棄物中に含まれる各元素(炭素、水素、酸素)がSHS反応に及ぼす影響についても調査した。 《結果》(1)各種木質系廃棄物の組成分析:外樹皮および内樹皮に含まれる各元素の割合は、各々約52%C、5%H、43%Oおよび46%C、6%H、48%O(質量比)であった。これは、市販のリグニン(55%C、4%H、41%O)とセルロース(43%C、6%H、51%O)のほぼ中間組成であった。 (2)チタンと各種木質系廃棄物等の混合物によるSHS反応:上記の結果を基に、目的組成をTiC_<1.0>としたものを作製し、その時の燃焼波速度(反応速度)を測定した。その結果、リグニン、外樹皮、内樹皮、セルロースの順に秒速6mmから1mmへと反応速度が低下した。これは各木質系物質に含まれる炭素量の変化と相関があった。 (3)生成相の同定並びに組織観察:反応生成物は、X線回折の結果より、TiCのみが検出された。しかし、その回折ピークは、化学量論組成に近いTiCのものと比べて高角側にシフトしており、TiC結晶内に格子欠陥(空格子点等)が導入されていることが示唆された。また、走査型電子顕微鏡観察により、TiCの結晶粒径は1〜5μmであった。 (4)反応機構に関する考察:反応系においてチタンと、木質系物質に含まれる炭素量の比を等モルに設定して合成を試みたが、反応中にその炭素が同じ木質系物質に含まれる酸素と反応し炭酸ガスを形成した。結果的にTiC結晶中の炭素欠損、すなわち炭素の空格子点を形成したと考えられる。
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