研究概要 |
ヒラメにおける骨格異常が遺伝的な要因で起こるのかどうかを検討するために、一般に脊椎動物の椎骨パターンを決定するマスター遺伝子として知られているHox遺伝子群を単離し、その椎骨形成過程における発現パターンを解析することにした。ゲノムDNAを鋳型としたDegenerate PCRにより、20種以上の候補遺伝子断片を単離し、そのうち7種については全長をクローニングした。その予想されるアミノ酸配列をもとに解析したところ、3つは体部前方で発現するタイプのHox遺伝子であり、残り4つは体中部で発現するタイプであった。さらに後者には、5'領域が異なる数種類の転写産物が混在していることが明らかになった。 ヒラメの飼育条件,特に収容密度が成長と生残に及ぼす影響について1m^3水槽を用いて検討した。成長と生残とは15-20千尾/m^3の収容密度で最も高くなり,それ以下でもそれ以上でも低くなること,すなわちこの密度が最適密度であることを明らかにした。すなわち,成長と生残を指標にして飼育結果を評価しようとする場合には収容密度を最適密度に調整した飼育実験を行う必要がある。 人工生産魚に多発する骨格系の異常の発生状況は,飼育密度によっては影響されないことが明らかになった。 日本栽培漁業境界小浜事業場で行われたヒラメの量産規模での種苗生産から,1孵化群110万尾から約60万尾の30mm稚魚を生産した全過程を対象にして定期的な標本採取を行い,成長と骨格形成過程の違いを調べた。平均全長20mmを越えたときに生じる着底群と浮上群との違いは底生生活に完全に移行した後に生じる生活場所を巡る競争によるもので,成長の劣位群が浮上群になることを明らかにした。したがって、平均全長20mmを越えた後に生じる着底群の成長は,浮上群のそれよりも常に良かった。ただし,30mm時点の脊椎骨異常の発生状況には両者の差は認められなかった。
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