本研究の目的は、衛生植物検疫措置の実態および制度を、日本・豪州・ニュージーランド(NZ)をとりあげ、国際比較すると共に、衛生植物検疫措置が農産物貿易に及ぼす影響を解明することにある。農産物輸出国である豪州・NZにおける農林水産省関連の農業経済研究機関および農業経済学界では、衛生植物検疫措置が及ぼす影響のリスク評価や経済評価に関して、多くの研究蓄積がある。一方、世界一の農産物純輸入国である日本の農産物貿易において、衛生植物検疫措置が及ぼす影響のリスク評価や経済評価は、より一層重要であるにもかかわらず、わが国農業経済学会では、この種の研究が皆無に等しい状況である。本年度は、引き続き文献サーベイを行うと共に、豪州にて現地調査を実施し、関連資料を収集して、これらの資料解析を試み、可能な限り日本国内で農業生産を確保する体制に資する望ましい衛生植物検疫措置のあり方を考察した。解析の結果、(1)豪州は、検疫病虫害(危険性がある病虫害)のみを検疫対象とし病虫害危険度評価を実施している点、(2)NZは、病虫害危険度評価を実施した植物だけに輸入許可を与えている点などが明らかとなり、(3)豪州・NZでは農産物輸入量が日本に比べれば少ない点や輸入業者から検査料金を徴収できるシステムがある点などの相違を十分に考慮した上で、日本は両国の検疫制度を参考とすべき点などが示唆された。また、豪州・NZによる厳格な検疫措置の結果、長年にわたり自由貿易協定を締結している両国間さえも、輸入が事実上制限されている農産物(NZ産リンゴの豪州向け輸出など)が存在するという注目すべき点も明らかとなった。
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