研究概要 |
光線力学治療(Photodynamic therapy;PDT)は、腫瘍親和性光感受性物質の投与後に腫瘍へ直接レーザーを照射して腫瘍組織を選択的に破壊する治療法である。現在、様々なPDT薬が開発されているが、日光過敏症の発生や腫瘍選択性が低いなどの問題があり、それらを改善したPDT薬の開発が望まれている。 本年度は、細胞認識において重要な役割を果たす糖を、基本骨格であるm-THPC(5,10,15,20-tetrakis(m-hydroxyphenyl)chlorin)あるいはm-THPP(5,10,15,20-tetrakis(m-hydro-xyphenyl)porphyrin)に連結した16種のポルフィリンおよびクロリン化合物について、PDT薬としてのスクリーニングを行った。 培養KLN205肺扁平上皮癌細胞およびS180肉腫細胞に薬剤を取り込ませたのち、波長652nmのダイオードレーザーを照射した結果、m-THPCにグルコース基を連結させたm-TGlcPC(5,-10,15,20-tetrakis[3-(β-D-glucopyranosyloxy)phenyl]chlorin)において、有意な細胞傷害性が認められた。また、共焦点レーザー顕微鏡を用いてKLN205肺扁平上皮癌細胞内の薬剤の分布を観察したところ、m-TGlcPCとm-THPCでは細胞質内での分布差が示唆された。次いで、KLN205肺扁平上皮癌を移植したマウスの尾静脈から薬剤を投与し、平成12年度の結果に基づいて24時間後にレーザーを腫瘍へ照射したところ、m-TGlcPCはm-THPCと同程度に腫瘍の成長を阻害した。 以上の結果から、本年度に検討した16種の新規薬剤のうち、m-TGlcPCが有用なPDT薬となり得る可能性が示唆された。また、糖を連結することによって薬剤の細胞内分布および光線力学的抗腫瘍効果が変化することが示唆された。
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