研究概要 |
BCL10遺伝子はt(1;14)(p22;q32)をもつmucosa associated lymphoid tissue(MALT)lymphoma症例の転座切断点近傍から今年単離された(Cell,96,35,1999;Nature Genet.,22,63,1999)。当初は転座によってもたらされるBCL10の構成的過剰発現がlymphomagenesisに重要と考えられたが、その後転座の有無に関わらずそのopen reading frame(ORF)内にpointmutationが高頻度に発見された。しかもしばしばframeshiftmutationによりC末の欠失したtruncated productが発現すること、さらにfull length BCL10はrat embryo fibroblast(REF)に過剰発現するとapoptosisを誘導するのに対して、C末の欠失したtruncated productはapoptosis誘導能を失い、逆にREFをtransformする形質を獲得することが示された(Cell,96,35,1999)。さらに注目されたことはこれらのmut ationがMALT lymphomaだけでなく、精巣腫瘍、悪性中皮腫、大腸癌、肺癌などの固形腫瘍でも認められたことである。一方、その後、これらの腫瘍ではゲノムDNAにmutationが見られないとの報告もあり、議論がある(Cell,97,683,1999)。私は、BCL10 mutationのメカニズム明らかにしたいと考え、以下のようなprelimilaryな結果を得た。BCL10 truncated proteinの発現を解析する目的で、バーキットリンパ腫細胞株,Ramos,Bjab;T細胞株,Molt4,Jurkat;大腸癌細胞株,Colo201;食道癌細胞株,TE1;胃癌細胞株,MKN28ならびに正常扁桃よりmRNAを抽出してfull length ORFをカバーするようにRT-PCRを行った。この際、forward primerの5'側にT7-promoterとKozak配列をもつリンカーを付加した。このprimerを使うとPCR productにpromoterとKozak配列を付加でき、直接in vitro translationに導入すればBCL10蛋白質を合成できる。そこで、[^<35>S]-methionineでラベルしたin vitro translation productを抗BCL10抗体で免疫沈降して解析したところ、それぞれの細胞で発現しているtruncated BCL10 proteinが複数のバンドとして検出された。PCR産物をクローニングし、シーケンスしたところ、特定のframeshift mutationによるものであることが判明した。これらのmutationは正常扁桃でも検出されたことから、BCL10mutationは正常細胞でも起こっていることを発見した。さらに驚いたことにゲノムDNAにはmutationが見られず、mutationが転写後何らかのメカニズムにより導入されていることが示唆された。
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