研究概要 |
家庭や工場排水による富栄養化した湖沼の藍藻(アオコ)の異常発生が世界各地で頻発している。淡水藍藻に毒性がある事はかなり以前から知られていた。原因物質はマイクロシスチン(microcystin、MC)で、Microcystisにより産生され、強力な肝臓毒とともに発がんの促進(promotor)作用がある。中国東北部寒冷地での研究報告がないことから汚染の実態と肝臓癌高死亡率との因果関係を検討するため、我々は黒龍江省防疫センターの協力を得て、中国東北部ハルピン地区住民の飲料水及び水源地のMCによる汚染状況の調査を行い、肝臓癌発生地域とMC汚染との因果関係を検討した。 14ケ月間連続調査の結果、全ての飲料水源においてMCが検出され、アオコの発生時期である6月から11月では、MCの検出頻度が高かった。最高平均MC濃度の検出時期は、鏡泊湖では2000年の10月で平均濃度24,000pg/ml(最大41,000pg/ml)、寧安県水源では2000年10月で平均濃度1,100pg/ml(最大2,100pg/ml)、牡丹江水源では2000年7月で平均濃度300pg/ml(最大380pg/ml)が検出された。鏡泊湖の平均MC汚染度は、調査水源中で最も高かった。飲料水中のMC測定結果は、5月から9月にかけて、飲料水源の汚染時期と一致していたが牡丹江水道では飲料水源のMC汚染が見られず、2000年3月及び12月に高頻度に検出された。最高の平均MC濃度が検出されたのは、寧安県水道では2000年9月での40pg/ml(最大110pg/ml)、牡丹江水道では2000年12月の50pg/ml(最大85pg/ml)、鏡泊湖の貯め水では2000年11月の160pg/ml(最大1,400pg/ml)であった。また、各飲料水中のMC濃度は、水源のMC濃度と比較して低値であった。以上の結果より、 1)鏡泊湖、寧安水源、牡丹江市の水源のMC汚染状況は季節により異なり,外気温22℃となる6月から検出され、気温7℃となる11月まで継続して検出された。高濃度のMCが検出された時期は7月から10月までの4ケ月間であった。 2)水源である湖の汚染状況と水道水中に検出されるMC濃度は並行しており、浄水技術の向上が大きな課題である。 3)貯め水に高濃度のMCが検出されたことから、環境水を直接飲用することは健康上問題で、衛生教育を徹底する必要がある。 4)MCは肝臓がんプロモータ作用を持つことから、調査地域の肝臓がんの死亡率が高い原因の一つとして疑われる。 影響要因は多様であり、食物連鎖の面から魚肉内の蓄積状況についてもさらに検討を加える必要がある。
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