研究概要 |
本研究の目的は,トロージャンペプチドやHIVタット蛋白などのペプチド系ベクターを用いて,核酸ドラッグやペプチド系薬剤をin vitroで膵癌細胞内に導入し,遺伝子情報特異的な抗腫瘍活性を検討するとともに,in vivoの治療実験での有用性を証明することにある.1.膵癌細胞株にビオチン化トロージャンペプチドを接触させ,共焦点レーザー顕微鏡で核内蛍光強度を測定して核内移行度の経時的観察を行ったところ,ペプチド系ベクターの細胞内速やかな移行が確認された.2.Bcl-X遺伝子のアンチセンス・オリゴヌクレオチドとトロージャンペプチドの共有結合体(トロージャンBcl-X・AS)を作成し,Bcl-XLの遺伝子発現の異なる膵癌細胞株と放射線抵抗性Bcl-XL異常発現株において,トロージャンBcl-X・ASを作用させた.放射線及び抗癌剤誘導下のアポトーシス増強作用と細胞増殖抑制効果,及び塩基配列特異的mRNA翻訳阻害が認められた.3.膵癌で高頻度に見られるp16癌抑制遺伝子の活性中心ペプチド合成し,トロージャンペプチドの共有結合体(トロージャンp16)を作成しin vivo治療実験を行った.その結果,皮下腫瘍モデルにおける著明な抗腫瘍効果と,腹膜播種モデルにおける有意の延命効果が認められた.薬剤による有害事象は観察されず,癌細胞に直接遺伝子を導入するウイルスベクターによる遺伝子治療の問題点を解決する一つの方法として,ペプチド系ベクターを癌治療に応用することの有用性が示唆された.
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