研究概要 |
【背景】本研究の目的は胸腺腫腫瘍内リンパ球(TIL)の分化度・T細胞レセプター(TCR)遺伝子再構成を解析することにある。昨年度はTILの中にフローサイトメトリー(FCM)上認められている幼弱T系リンパ球においてTCR遺伝子再構成の存在を見出した。今年度はさらにこの減少について詳細な検討を加えた。 【方法】ヒト胸腺腫中のTILについてDNAを抽出、サザンプロットハイプリダイゼーション法を行った。制限酵素はBAM-HI, ECO-RV(β), ECO-RI(γ), HIND IIIとし、TCR-βC, J region、TCR-γJ regionおよびTCR-δJ regionをプローブとして遺伝子再構成バンドを検出した。これと同時にCD4,8の発現をフローサイトメトリー(FCM)で測定し、病理組織学的特徴と併せて検討した。 【結果】Stage I(encapsulated)(N=6),Stage III(invasive)(N=4)で解析した。病理組織はStage I(AB-B2)Stage III(B2-B3)に分布した。TCR-deltaの再構成はいずれも認められなかった。TCR-gammaの再構成はStage Iで5/6に、Stage IIIでは1/4例(B2)に認められた。TCR-beta再構成はTCR-gamma再構成のある症例では認められた。Stage Iで全例に、Stage IIIで2/4に認められた。TCR-beta遺伝子再構成が認められた胸腺腫TILはいずれもCD4/8 double positiveであり、再構成なしではCD4/8 single positiveであった。 【考察】T-ce11の分化はgermlineからTCR-delta/gammaの再構成が最初に行われ、delta/gammaの再構成失敗例がTCR-alpha/betaの再構成を行うという階層的分化説に従えば、TCR-gamma遺伝子再構成は非常に未熟なT系列細胞で起こっていることとなる。また、悪性度の高い胸腺腫内では未分化なT細胞は認められず、フローサイトメトリーの所見と矛層しなかった。
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