研究概要 |
HSP70BプロモーターをもったLacZ遺伝子を培養軟骨細胞に導入した後、熱ストレス(43℃、2h)および静水圧ストレス(50MPa、2h)を負荷することにより、導入遺伝子を発現誘導させることが可能であった。また内因性HSP70Bの発現が誘導された。これらのことは、HSP70Bを誘導する熱ストレスおよび静水圧ストレスを負荷した時には、外来で導入したHSP70Bプロモーターを活性化して、その下流にある遺伝子の発現を亢進させることを示している。TGF-β1は成長因子の一つであり、軟骨マトリックスの合成促進因子である。また軟骨細胞のメタロプロテアーゼ産生を抑制し、組織のメタロプロテアーゼインヒビターの産生を冗進する。それゆえ軟骨疾患に対する治療薬として期待されている。しかし関節内に高濃度で存在すれば骨棘が形成されるとの報告がある。したがってTGF-β1を臨床応用する際には、発現を制御する必要がある。この遺伝子制御機構として、LacZ遺伝子の発現制御で成功したHSP70Bプロモーターを用いた。熱ストレス(43℃、2h)を負荷した際に、導入したTGF-β1遺伝子の発現の誘導を遺伝子レベルおよびタンパクレベルで確認できた。培養上清中のTGF-β1濃度は、コントロール群では,560.504±17.270 pg/ml (mean±SD、n=3)であったのに対し,43℃、2hの温熱ストレスを加えた細胞群では、2689.254±233.875 pg/mlであり、無処置の細胞と比較して統計学的に高値を示した(p<0.0001)。これらの結果は、軟骨変性の重症度に応じて軟骨細胞において発現量が増加するHSP70Bのプロモーターを用いたTGF-β1遺伝子の発現制御機構が、変形性関節症を代表とする関節疾患の遺伝子治療に有用であることを示す。今後この導入遺伝子発現機構をin vivoへ応用することは重要であると考える。
|