研究概要 |
生体におけるノルアドレナリン性神経の働きは交感神経系の根幹となってその調節を行っているばかりでではなく、下行性疼痛抑制系を構成するなど様々な機能に関与している。ノルアドレナリントランスポーター(以下NAT)はシナプスにおけるノルアドレナリンの神経伝達の終了に大きな役割を持っている。一方、麻酔薬は興奮期に一過性の精神運動興奮作用や交感神経刺激作用を発現し、一部の麻酔薬においては痙攣を誘発する作用を持つなど麻酔管理上好ましくない生体の反応を認める。しかしこれらの作用の機序は現在まで解明されていない。精神を昂揚させたり心悸興奮作用を有するコカインや三環系抗うつ薬は古くからNATの機能を抑制することが知られている。筆者らは今回麻酔薬のすでに述べた作用がNATをはじめ、その他の相同性の高いモノアミントアンスポーター機能の抑制に起因すると考え、麻酔薬とトランスポーター蛋白との相互作用を分子レベルで検討した。その結果、(1)静脈麻酔薬(プロポフォール、ケタミン)がノルアドレナリントランスポーターを抑制する結果を明らかにした。(Minami et al.,1996,Hara et al.1998,Hara 2001,In press)(1)静脈麻酔薬(プロポフォール、ケタミン)に長時間反応させた細胞を用いて[3H]-ノルアドレナリンの細胞内取り込みに対する影響を調べた結果その取り込みが増加していた。(Hara et al.,In press)(3)さらに長時間反応させた紬胞からNATmRNAを調製し、NAT遺伝子の塩基配列に基づいて作成したNATcDNAに対する2つのプライマーを用いてRT-PCR(reverse transcriptase-polymerase chain reaction)法でmRNAを定量し、麻酔薬の長時間作用によるmRNAの変動を調べた結果、NETmRNAは増加していることが明らかとなった(Hara et al.,In press)。これらのことは、プロポフォール、ケタミンを長時間使用するとそのNETの発現量に影響を与えていることを示唆しており、これらのNETの静脈麻酔薬の長時間使用による薬理効果の変化に何らかの影響を与えていると考えられた。現在、これらの実験結果を基に鎮痛薬トラマドールにもNETの機能に影響するかどうかを検討している(Sagata et al.,In press)。
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