研究概要 |
新規分子シャペロンORP15は,低酸素下で誘導され細胞死を抑制するが,最近癌組織にも存在することが分かってきた.癌が増殖するためには,癌組織を栄養する新生血管の存在が必須であり,VEGFをはじめとする増殖因子の関与が考えられている.本研究では,ORP150が分泌蛋白であるVEGFの輸送および成熟過程において重要な役割を果たしていることを証明し,アンチセンス法を用いた癌遺伝子治療の有用性につき検討を行った. まずORP150のantisense cDNAを導入したアデノウィルスベクターを作製し,in vitroにおいてヒト前立腺癌細胞株DU145を用いた基礎的検討を行った.作製したアデノウィルスは,一定の条件下(20MOI, 24h)で非特異的細胞障害を認めることなく100%の感染効率を示した.ウェスタンプロット法にてantisense ORP150が,ORP150の蛋白発現を抑制することを証明した.ORP150の抑制により,VEGFがmRNAレベル,および培養上清を用いたELISA法にて蛋白レベルでも抑制されることを確認した.あらかじめアデノウィルスを感染させたDU145が,VEGF抑制を介して血管新生が抑制されることを受精鶏卵漿尿膜法を用いて証明し,さらに同様の細胞をヌードマウス皮下に移植することで腫瘍形成が著しく抑制されることを証明した. 以上の検討から,antisense ORP150cDNAを導入したアデノウィルスは,前立腺癌細胞株DU145に対して,VEGF抑制を介する抗腫瘍効果を持つことが示唆された.そこで治療実験として,皮下移植されたDU145腫瘍に対してアデノウィルスを局所投与した.コントロール群に比べ有意に腫瘍増殖が抑制され,antisense ORP150を利用した遺伝子治療の有用性が認められた.
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