研究概要 |
本研究の目的は,長期間,十分な咀嚼機能が発揮されていなかった高齢者の刺激唾液分泌量ならびに味覚感受性が、良好な咀嚼機能を保持していた健常高齢者と差異があるか,さらに,義歯装着による咀嚼能力の改善が唾液分泌能と味覚感受性を向上させるかを調べることである. 対照群として,平成12, 13年度の新潟県高齢者大学教養講座受講生で新潟大学歯学部附属病院(以下、本院)での面接調査と味覚検査に同意し、天然歯や義歯によって良好な咀嚼機能が保持されている30名(男性15名、女性15名)を選択した.被験者群として,無歯顎あるいは多数歯欠損症例で長期間にわたって義歯を使用せずに放置,または明らかな不良義歯を使用していた高齢者5名(男性2名、女性3名、平均年齢74歳)を選択した.さらに、味覚障害者群として本院味覚外来で味覚減退を訴えた14名を選択した。 対照群、被験者群には 1)刺激唾液分泌量:パラフィンペレットを5分間自由咀嚼 2)咀嚼能力 3)味覚感受性:濾紙ディスク法による味覚閾値 4)量大咬合力を検査した.味覚障害者群には刺激唾液分泌量、味覚感受性検査を行い、さらに、唾液中TIMP-1活性と血清亜鉛値について健常高齢者群と比較した。被験者群には通法に従い補綴治療を行い(現在治療中もあり)、治療前、義歯装着直後と装着3ヵ月、6ヵ月後検査を行った。 対照群における唾液分泌量は平均6.6ml、濾紙ディスク法による味覚閾値の平均値は、甘味2.9、塩味3.1、酸味3.3、苦味3.0であったのに対して、味覚障害者群は甘味4.2、塩味4.2、酸味4.4、苦味3.6と上昇していた。また、味覚障害者の唾液中TIMP-1量は健常者と比較して有意に少なく,血清亜鉛値と唾液中TIMP-1量との間には相関がみられなかった。被験者群では唾液分泌量は義歯装着後に増加する傾向があったが、味覚閾値の改善を見出すまでは至らなかった。
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