研究概要 |
本研究では、インスリン抵抗性の改善をもたらす運動トレーニングが機能低下した視床下部のレプチン受容体を改善するかどうかを検討する第一歩として、一過性のLT強度の走運動が脳内レプチン受容体の感受性を変えるか否かについて,主に視床下部のレプチン遺伝子発現の変化から詳細に検討することを目的とした。具体的には、LT速度を境に種々の速度でラットを走行させ、どんな速度とタイムコースで脳内レプチン蛋白が増加するか、あるいはレプチン受容体(Ob-R)遺伝子発現が下降調節(作用した証となる)するかを検証するものである。我々が開発した走運動ストレスモデルを用い、LT速度に当たる走運動が脳内レプチン受容体の感受性を高めるかどうかについて検討した.レプチン受容体の遺伝子発現については,ノーザンブロッティングとin situhybridizatoin法から,タンパクレベルについては免疫組織化学的分析とwestern blottingからそれぞれ検討した.実験は,Wistar系雄ラットに予め決定されたLT速度に相当する分速20m/minを少し越える速度である25m/minで30分のトレッドミル走を行わせ,運動前0分,運動後10分,30分,1時間にラットの脳を摘出し,ドライアイスで凍結固定した.固定された脳はホモジナイズした後,総RNAを抽出した後,レプチン受容体(long form)を認識する^<32>P標識,アンチセンスプローブを用いてハイブリさせ,ノーザンブロティングを行った.レプチンの下流で働き,摂食促進効果をもつNPYmRNAについても同時に検討した.その結果,Ob-R mRNAは,運動後1時間までは変化しないが,運動後1時間で増加する傾向が認められた(有意差はない).免疫組織化学では,運動後に弓状核や腹内側核におけるob-R陽性細胞のうちc-Fosを発現する細胞数の割合が増加する傾向がみられた.また運動後30分に摂NPYmRNAが有意に増加した.さらに,血中のレプチン濃度をRLAで測定すると有意な変化は認められなかった.これらのことから,運動中あるいは運動直後はレプチン受容体の機能はむしろ減弱するが,運動後数時間を経て,その反動としてレプチン受容体機能が亢進する可能性が示唆された.現在,in situhybridization法によるmRNAの半定量,ならびに,western b1otthingについて解析を進めており,それらの結果を踏まえて結論される段階にあるが,LT強度の運動がレプチン感受性を変え,摂食調節やエネルギー代謝効率を変えうる可能性が十分期待できる.
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