研究概要 |
本研究は,急激な方向転換などによって膝前十字靭帯を損傷した患者を対象に,日常生活動作よりも高度な運動機能の再獲得を目標としたアスレティック・リハビリテーションによる靭帯再建術後の神経-筋機能の回復過程を観察した.男性患者1名(術後5.1ヶ月に検査開始),女性患者1名(術後8.4ヶ月に検査開始)を対象として,膝関節を90度に屈曲した状態から光に応じてできるだけ早く高く跳躍を行う反応動作検査を縦断的に実施した.なお,神経-筋機能評価の指標として,動作前silent period(Premotion silent period;PMSP)という反応動作開始直前に出現する筋放電休止期の出現頻度を用いた.その結果,男性患者の膝関節伸展筋における健側および患側のPMSP出現頻度は術後5.1ヶ月に健側1.9%,患側1.9%,6.1ヶ月に3.3%,3.3%,6.5ヶ月に73.3%,40.0%であった.また女性患者では術後8.4ヶ月に健側0.0%,患側0.0%,8.8ヶ月に15.0%,15.0%,9.3ヶ月に83.3%,86.7%であった.よって,アスレティック・リハビリテーションによる神経-筋機能の回復過程において,PMSP出現頻度は高まることが観察された.これまで,PMSPの出現により最大筋力および最大筋力上昇率が高まり,PMSPを出現させる抑制現象は力の立ち上がりを速めることに役立つと考えられている.以上のことから,受傷後における運動機能の再獲得過程において,反応動作における発揮筋力向上に貢献すると考えられるPMSPの出現頻度は運動機能回復程度の評価に有用であることが推察された.
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