研究概要 |
本研究では,昨年度報告した二関節筋の影響を包含して評価した下肢三関節の他動的関節可動域(ROM>が立位姿勢制御様式に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。10代〜70代の健常被験者を対象に,被験者が起立する斜面台を水平から転倒に至るまで徐々に傾斜させ,その時の姿勢変化から足関節角度に対応した立位姿勢制御様式の加齢変化を検討した。斜面台の傾斜は足関節背屈方向に2度ずつ増加させ、被験者の側方から写真撮影を行って姿勢変化を追跡した。その結果,傾斜に伴う姿勢変化はどの年齢域においても膝関節を動かさずに股関節を動かすパターン(股関節型)と股・膝関節を連動させるパターン(股・膝連動型)に分類された。股関節型,股・膝連動型ともに初期の斜面台の傾斜には、足関節の背屈のみで対応し、他の関節角度は水平面における姿勢を維持していた。これは,膝・足関節角度平面において鉛直方向の軌跡として観察される。しかし、足関節の背屈がこれ以上不可能になる時点以降,股関節型と股・膝関節連動型は異なった姿勢変化を示した。股・膝関節の角度は膝・足関節の二関節にまたがる腓腹筋の長さによって規定され、それを超えた足関節背屈は理論的には不可能であるが,実際には足部の柔軟な構造や踵のわずかな離床等により、見かけ上それ以上の背屈を示す例があった。股関節型では、腓腹筋によって規定される背屈以降は膝関節角度が維持され,股関節屈曲によって斜面台の傾斜に対応した。一方,股・膝関節連動型は,膝関節角を維持したままでの足関節背屈が不可能になると膝関節を屈曲し,腓腹筋を弛緩させ,さらに足関節を背屈させていった。この時の関節角の軌跡は膝・足関節角度平面におけるROMの傾斜に沿って移動した。また,この時膝屈曲による重心の移動に対応して股関節が屈曲し,膝・足関節の変化が不可能になった時点から顕著な股関節の屈曲が起こった。このように,いずれの年齢群においても斜面による姿勢の大きな変化はROMの境界において発生しており,加齢によってROMが低下すると立位姿勢制御能力に大きな影響を与え,立位のみならず,歩行や起きあがり動作などの日常生活動作全般に支障が及ぶことが示唆された。
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