研究概要 |
多細胞生物の分化した細胞では,ほとんどの遺伝子は不活性クロマチンとして存在する。不活性クロマチンと活性クロマチンの間には境界が存在し、境界を形成する複合体が不活性クロマチンからのDNAメチル化等の不活性化の波を遮断すると予想されてきた。しかし,生物学的に重要な意味をもつにも関わらず,その分子機構については,ほとんど明らかにされていなかった。この研究では,クロマチンの境界を形成するために必須の塩基配列を特定化し,クロマチンの境界複合体を形成するタンパク質因子の同定と、因子の遺伝子のクローニングを行った。また、トランスジェニック生物作出の際に大きな障壁となっているポジション効果を,回避するためにクロマチンの境界が有効であることを示した。1.ウニのアリールスルファターゼ(Ars)遺伝子上流(-2686〜-2113)に存在するクロマチンの境界約600塩基対を細分化し、エンハンサー遮断効果を指標に境界(インスレーター)活性を解析した。その結果、-2232〜-2175の配列がインスレーター活性に不可欠であることが明らかになった。2.また、この領域に結合する因子を、酵母を用いたOne Hybridシステムによってクローニングしたところ、CTCFホモログ及び、新規遺伝子がクローニングされた。新規遺伝子はインスレーター内のGストレッチに結合することが示されたので、Gストレッチ結合因子(GSBP)と名付けた。3.GSBPは分裂間期の核に存在し、染色体分裂期に消失することが明らかになった。4.さらに、GSBPのDNA結合ドメインのみを強制的に発現させると染色体分離に異常が生じることが明らかになった。5.ヒト、ショウジョウバエからGSBPホモログを単離した。6.ウニのArsインスレーターが、ヒト培養細胞、マウス胚、植物培養細胞でもポジション効果を遮断する活性があることを確認し、インスレーターが将来的に遺伝子導入技術の飛躍的進歩に貢献する可能性を示唆することができた。
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