研究実績の概要 |
フォノン熱伝導度κph を計算する為に以前開発したフォノン輸送NEGF 理論(Y. Asai, Phys. Rev. B 78, 045434 (2008))を第一原理計算ベースに実装し、これを用いてパラシクロファン誘導体のフォノン熱伝導度κph、熱電変換効率(figure of merit)ZT やその他の熱電物性値の計算を行った。結果を取りまとめて論文発表を行った( M. Buerkle, T. Hellmuth, F. Pauly, Y. Asai, Phys. Rev. B 91, 165419 (2015))。上記のフォノン輸送NEGF 理論においては断熱ポテンシャルの非調和性や振動モード間結合に由来するフォノン・フォノン散乱効果は考慮されておらず、高温におけるκph の定量性に疑問が残る。この問題を解決する為に、フォノン・フォノン散乱効果を取り入れたフォノン輸NEGF 理論を開発し、第一原理計算で実装した。これを用いた試行的な計算を金原子ワイヤーに対して行った結果、フォノン・フォノン散乱効果により室温付近のフォノン熱伝導度κph が約20%程度減じる事が明らかになった。その他、幾つかの国内外の大学の実験グループと共同研究を行った。阪大・基礎工実験グループとは、内包フラーレンのゼーベック係数S に関する共同研究を行いDFT+Σ法という補正法を用いる事により、ゼーベック係数S、電気伝導度σに関して、実験と理論の間に非常に良好な定量的な一致が得られる事を実証した。アリゾナ大・実験グループとは或る芳香環族分子のゼーベック係数S、電気伝導度σに関する共同研究を行い、特に置換配位位置の変化に伴う量子干渉効果がこれらの熱電物性値に及ぼす影響に関する研究を、実験及び理論の双方から行った。これらの結果をまとめて、幾つかの論文を学術国際誌に投稿予定である。
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