研究概要 |
1. 溶質原子の強度因子への影響 前年度において, 林転位の強度因子α_dが, 試験温度と固溶炭素量の影響を受けやすいことを指摘し, 本年度は溶体化処理したモデル合金を用いて上記を定量的に評価した. 一軸歪を導入し林転位の密度を変えたサンプルの降伏応力および転位密度から, α_dは固溶尿素量と試験温度に依存し, α_d (T, C)と表記できることを明らかにした. これは, 林転位として存在する拡張転位が炭素雰囲気に固着され, 炭素濃度が高い場合には転位の収縮に多くのエネルギーが必要なためである. 2. 熱時効材 熱時効したサンプルについて, 500℃時効では硬度は増加, 降伏応力は減少し, 700℃時効では硬度・降伏応力とも減少した. これは中性子照射材とほぼ同様の傾向であった. 700℃時効材での軟化は, 主に転位の回復によるものであり, 大きな析出物の強度への影響は小さいものと推察した. 3. 酸化物分散強化型316鋼 酸化物は平均径10nmほどで大半が陰イオン欠損型蛍石構造のY_2Hf_2O_7であり, その分散状態は不均一であった. 結晶粒径は平均1μmほどで, 通常の溶体化処理316鋼に比べ非常に小さく, 強度増加分のうち80%は結晶粒微細化によるものであった. これは, 酸化物の分散が不均一であるために有効粒子間距離が大きく, みかけの強度因子が小さくなったものであり(0.08-0.1程度), 均一分散の重要性を指摘した. 4. 妥当性検討と統合モデル 組織-強度相関についてはオロワンの式が有用であり, 強度因子αついては障害物の種類ごとに詳細に理解することが重要で, 特に林転位では温度と固溶炭素濃度に影響されることを明らかにした. 前年度結果を含む機械特性のスケール相関では, 基本的に線形関係として問題はないが, 一部特殊な場合(結晶粒が小さい場合, イオン照射材に代表されるような硬さの深さ依存が存在する場合, など)は適用できないことを示した.
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