研究概要 |
本研究では,代表的なバイオ燃料であるバイオディーゼルとバイオエタノールの製造時にそれぞれ副生するグリセリン廃液と残さリグニンを対象に,酸化鉄触媒を用いて有用化学物質へ変換する触媒反応プロセスを開発することを目的にした. まず,グリセリン廃液からの基礎化学原料の製造を実施した.グリセリン廃液の希釈水溶液を供給原料に酸化鉄触媒を適用したところ,プロピレン,アリルアルコール,ケトン類などの有用化学物質を合成することに成功した.反応温度,触媒量等の反応条件を検討することにより,有用化学物質の収率は,最大で約60C-mol%に達した. 次に,リグニンの低分子化(以下,可溶化)プロセスの開発(1段目)と,得られた可溶化液からのフェノール類の製造(2段目)を実施した.1段目に関して,H_2O/BuOH混合溶媒中でモデル物質を用いた反応を行い,リグニンの可溶化機構を検討した.リグニン中に含まれる種々の結合様式を含むモデル物質を用いた反応結果から,本可溶化反応は,主にリグニン中の結合として最も多いアリールエーテル結合の加水分解により進行していることが示唆された.また2段目に関して,酸化鉄触媒を充填した高圧固定床流通式反応器にリグニン可溶化液を供給し,反応圧力の影響を検討した.その結果,反応圧力を増加させることで,触媒層前に堆積する残さ量が減少した.これは,高圧の過熱水蒸気雰囲気下で反応を行うことで,可溶化液中の重質成分が高分散化され,重質成分の重合反応が抑制されたためと考えられる.また,反応条件を検討したところ,原料と併給する水蒸気量を増加させることで,触媒構造の安定性が向上し,単環芳香族を含めたフェノール類回収率(芳香環基準)が17%にまで向上した. 以上の成果から,グリセリン廃液とリグニンからの有用化学物質の製造に成功した.
|