日常生活において、ヒトは手を伸ばして物体を確実につかむことができる。一見簡単なこの運動の背景には、複雑な運動制御メカニズムが関与している。脳は、手指の姿勢や外部環境といった情報に基づいて、最適な運動制御を行っているものと考えられる。平成25年度は、前年度に設定を行った光学式動作解析装置を使用して、重力の影響が鉛直上および下方向への到達把握運動において異なるか否かを調べた。解析の結果、(重力に沿う)鉛直下方向への運動に比べて、(重力に抗する)上方向への運動において、上肢の加速時間および手指の開手時間が短いことが明らかとなった。これらの結果は、鉛直上下方向への到達把握運動において、脳が上肢に働く重力の作用を考慮して到達把握運動を制御していることを示唆する。また、このことは、重力環境におけるヒトの運動制御則の一端を明らかにしており、国内外の学会において評価を受けた。さらに、本研究成果は、国際学術雑誌であるExperimental Brain Research誌に掲載された。また、平成25年度後半から、重力(加速度)のセンサーである前庭器に着目し、到達把握運動の制御における前庭器の寄与を調査する目的で実験を行った。実験では、到達把握運動を遂行している間に経皮前庭電気刺激を加えることにより、運動に変化が生じるか否かを調べた。この実験に関しては、現在データの解析を進めており、詳細な検討の後に学会大会での発表および学術雑誌での掲載を通じて、研究成果を公表する予定である。
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