研究課題
特別研究員奨励費
大腸菌の薬剤排出ポンプAcrBを阻害するピリドピリミジン誘導体ABI-PPは、緑膿菌の薬剤排出ポンプMexBの特異的阻害剤であるが、多剤耐性緑膿菌のもう1つの有力な原因である薬剤排出ポンプMexYを全く阻害できず、多剤耐性緑膿菌感染症の治療薬にはならなかった。AcrB・MexBとABI-PPとの共結晶を解析した結果、薬剤排出ポンプの遠位ポケット内部に阻害剤結合ピットの存在が示唆された。そこでまずABI-PPの阻害剤としての機能を調べたところ、基質であるドキソルビシンとは異なり、ABI-PPはAcrBによって全く排出されないことが分かった。この結果から、ABI-PPは遠位ポケット内の阻害剤結合ピットに強く結合することで、薬剤排出ポンプの蠕動機構を抑制していることが示された。続いてABI-PPの結合部位を解析したところ、AcrB・MexBの阻害剤結合ピットにあるフェニルアラニン(F)が、MexYの同位置ではトリプトファン(W)に置き換わっており、その大きな側鎖による立体障害でABI-PPが結合できなくなっていると考えられた。各種変異株を解析した結果、AcrB_F178W変異体はABI-PPの阻害を受けなくなり、MexY_W177F変異体は逆に阻害されるようになった。一方、MexB_F178W変異体は、依然としてABI-PPの阻害を受けていた。この原因を探るため、MexB_F178WとABI-PPの共結晶を解析したところ、MexBの阻害剤結合ピットにはわずかに余裕があり、トリプトファンに変異してもピット内に側鎖が突き出さないことが示唆された。そこで、ピット内部のスペースをわずかに増やしたAcrB_F178W/V139A変異体、MexY_Il38A変異体を構築して解析した結果、トリプトファンがあるにも関わらず、ABI-PPの阻害を受けるようになることが明らかとなった。阻害剤ABI-PPに対する感受性は、阻害剤結合ピットにおけるごくわずかな立体障害によって決まることを明らかにした本論文は、Nature誌に採択・掲載された。この立体障害を回避するような誘導体を分子設計することで、AcrB, MexBのみならず、MexYを含めた広域薬剤排出ポンプ阻害剤の開発が可能になると考えられる。
(抄録なし)
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Nature
巻: 500 号: 7460 ページ: 102-106
10.1038/nature12300
Journal of Antimicrobial Chemotherapy
巻: 68(5) 号: 5 ページ: 1066-1070
10.1093/jac/dks528
http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/mid/Site/Research.html
http://lifecollection.net/life/2#anchor