当該研究は、腸内細菌の質的・量的変化を指標とした、食品中化学物質の安全性評価手法の開発を目指す。当該研究の遂行において申請者は、食品ナノマテリアル(NM)の代表格である非晶質ナノシリカ(nSP)をモデル化学物質とし、nSPの経口投与における生体影響と腸内細菌の質的・量的変化の因果関係を精査している。具体的には、NMの粒子径・表面修飾の有無の観点から、物性の異なるnSPを経口投与したマウスを用いて、(1)ハザード解析、(2)ハザード発現における腸内細菌叢の寄与、(3)腸内細菌ポピュレーションの変動を解析する。当該年度は、本研究戦略の(1)を中心に実施した。 nSPの経口曝露時のハザード同定に向けて、粒子経が30nm、70nm、300nm、1000nmのnSPを28日間マウスに経口投与し、体内動態解析および一般毒性学的観点からハザード解析を実施した。電子顕微鏡による定性的な体内吸収性解析の結果、いずれのnSPも体内吸収され、全身組織に分布することを明らかとした。一方で、血球検査、生化学検査、腸管局所の病理学的解析、体重・臓器重量の測定を実施したところ、いずれのnSPを投与したマウスにおいても、コントロール群と比較して有意な変動は認められなかった。以上の結果から、体内吸収量などを考慮する必要があるものの、nSPは食品NMとして用いるうえでは、極めて安全性が高い素材である可能性が示された。一方で、nSPが腸管局所に存在する腸内細菌に与える影響については世界的にも全く知見はない。従って、nSPは経口投与において一般毒性学的観点からはハザード発現は認められなかったものの、nSPの腸管局所への影響を考慮するうえで、nSPを腸管局所に曝露した際の腸内細菌の役割を評価することは重要である。今後は、腸内細菌除去マウスを用いて、nSP経口投与時の腸管局所の腸内細菌の役割を評価していく。
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