研究概要 |
摩擦現象は身近な物理現象でありながら, そのメカニズムは未だに不明な点も多い. 近年の計測技術の発達や, 計算機を用いたシミュレーションの発展に伴い, ナノという微細なスケールから摩擦のメカニズムの解明を目指すナノトライボロジー研究が発展している. このナノトライボロジー研究は, 理学的興味のみならず工学的にも非常に重要である. ある試算によると摩擦で失われるエネルギーは国民総生産(GNP)の約3パーセント(11兆円)に上る. エネルギーを効率よく利用するためには摩擦を制御することが重要である. そのために, 微視的な視点から摩擦を理解する必要があり, そこに研究の意義がある. 本研究は, 原子間力顕微鏡(AFM)と水晶マイクロバランス(QCM)法を組み合わせた摩擦力顕微鏡を作成し, 「グラファイトやフラーレンなどの低摩擦材料(特にグラファイト/C60/グラファイト構造)の低摩擦実現のメカニズムを実験的に解明すること」を目的としている. これまでのグラファイト(Gr)基板を用いた研究から, 水晶振動子の振動振幅がGr基板のポテンシャル周期(0.25nm)よりも大きい場合は典型的な固体摩擦のような振る舞いを示すのに対して, ポテンシャル周期を下回ると急激に動摩擦力が小さくなることが明らかになっている. 本年度は, AFMとQCMを用いた新測定技術を更に発展させるため, これまで用いてきたMHz帯のATカット水晶に変わり, Q値の高いSCカット水晶振動子による測定を立ち上げた. 水晶振動子のQ値の大きさは, エネルギー散逸の検出感度に関わる重要なパラメータである. 更に, 測定周波数を下げることでエネルギー散逸の検出感度の向上が見込まれたため, kHz帯の共振周波数を持つ音叉型水晶振動子を用いた測定装置も作成した. これらの振動子を用いることで, 低荷重領域における弾性変形に起因すると思われるばね定数の増加とエネルギー散逸の増加を観測した.
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