1.遺伝実験系統群の作出 遺伝実験に用いる純系を得るためB.rapaの小胞子培養を行った結果、カブ、ナタネ、コマツナ、ミズナ、ブロッコレットを含む5亜種36系統の倍加半数体を作出した。これらのうち12系統については総当たり交配によりF1を獲得し、3組合せについてはF2集団を、1組合せについては小胞子培養によりF1由来の倍加半数体系統群を作出した。 2.カブ栽培化起源 カブの栽培化の過程を明らかにするために、ナタネ×ヨーロッパのカブ、ナタネ×アジアのカブ、ヨーロッパのカブ×アジアのカブのF2集団を用いてカブの肥大形質についてQTL解析を行った。カブの肥大に関するQTLはヨーロッパとアジアの系統で同一であると考えられ、カブ栽培化の単一起源説を支持した。 3.カブの多様化と伝播経路 日本へのカブの伝播経路を明らかにするために、種皮粘性物、毛茸、葉緑体SSRおよび核SSRに基づく系統解析を行った。種皮粘性物がなく毛茸のある北日本のカブは、同形質をもつヨーロッパの系統よりも、種皮粘性物があり毛茸のない西日本のカブあるいは大陸アジアの一部の系統と近縁であった。一方で、連鎖解析の結果、両形質変異の原因遺伝子は異なることが明らかになった。これらのことから、カブは推定起源地である中央アジアから南アジア北西部において2群に遺伝的分化を生じた後に、一方の系統群はヨーロッパに伝播し、もう一方の系統群がさらに、遺伝的分化を生じたものと考えられる。この時、種皮粘性物および毛茸などの形質が、自然選択あるいは人為選択によって多様化し、北日本には種皮粘性物がなく毛茸のある系統が、西日本には種皮粘性物があり毛茸のない系統が、東アジアを経由あるいは直接に伝播したことによって、日本のカブにおける両形質の地理的変異が生じたものと推察された。
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