研究概要 |
本研究は(Mg, Fe)Oをはじめとする地球下部マントル鉱物の電気的及び磁気的性質を理解し地球内部構造を厳密に推定する上で必要となる新たな知見を与えることを目的としていた。(Mg, Fe)Oは地球下部マントルに相当する高圧下で高スピン-低スピン転移をはじめとする様々な相転移を起こすことが知られており、その性質を詳細に調べるための新たな測定手法として、地球科学という分野では馴染みの薄いSQUID磁束計やX線吸収分光法を使った測定系の開発を行ってきた。 SQUID磁束計の実験に関して、(Mg, Fe)Oの常圧下における磁気相図についての研究を日本地球惑星科学連合2013年大会で口頭発表した。(Mg, Fe)OはそのFe濃度に依り異なった磁性を示し、Fe高濃度では反強磁性転移及びリエントラントスピングラス転移を起こすが、Fe低濃度ではスピングラス転移のみを示すことが新たに分かった。地球下部マントルではFe低濃度の(Mg, Fe)O、核-マントル境界ではFe高濃度の(Mg, Fe)Oが存在すると考えられており、その性質の違いを報告できたことは有意義であった。 また、高エネルギー加速器研究機構でX線吸収分光法を行った。実験はPF-BL3Aで行い、入射光のエネルギーは7000~7300eVの範囲で、(Mg, Fe)O中のFeイオンのK吸収端近傍構造を測定した。試料は(Mg_<0.50>Fe_<0.50>)O、(Mg_<0.70>Fe_<0.30>)O、(Mg_<0.80>Fe_<0.20>)O、(Mg_<0.87>Fe_<0.13>)Oを用意した。圧力発生にはダイヤモンドアンビルセルを用い、それぞれの試料を室温下で約80GPaまで加圧し、X線吸収スペクトルの圧力依存性を測定した。その結果、どの試料も加圧とともに吸収スペクトルにおけるピークの相対強度が変化することが分かった。この変化は脱圧した場合に可逆的であることから加圧による試料厚みの変化に起因するものではないと判断できる。地球科学において高圧下X線吸収分光法はほとんど行われていなかったが、本研究でその測定を安定的に行える技術を構築することができたため今後の応用が期待される。
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