研究概要 |
今年度は、所得不平等と経済発展について政策を介した両者の関係を探るという観点の下, 以下の研究行った。 1. 現実の経済には様々な政策が施行されており、どの政策も「再分配」の効果があることは論を待たない。また、各政策は経済発展・成長に波及効果をもたらす。したがって、所得不平等と経済発展の関係を探るときには、政策がその間に介在していることを無視できない。本研究では、どのような経済状況(所得不平等や発展度合い)のときにどのような政策が実行されるか、さらに政策の実行によって経済のパフォーマンスがどのように影響を受けるかに関して理論分析を行った。より具体的には、資本課税率が投票によって決まるような政治経済学の枠組みを用いて理論モデルを構築した。分析の結果、以下の含意を得た。 (1)誰にとっても悪いという意味で、極めて質の低い租税政策が実行される場合がある。 (2)そのような政策は所得不平等が小さいときに起りやすい。 2. ブランド品などの輸入品には社会的地位を示すという作用がある。このことを考慮に入れ、発展途上国の人々が先進国からの輸入財の消費に社会的地位選好を持つような国際経済理論モデルを構築し、所得再分配政策の効果を分析した。所得再分配は一般に経済厚生の面から望ましいとされるが、モデル分析の結果、以下の含意を得た。所得再分配政策によって発展途上国の所得不平等が縮小すると、社会的地位選好の作用により輸入品の「消費競争」は激化する。すると、交易条件が悪化(輸出財の相対価格が下落)し、途上国の所得は減少する。つまり、厚生の面では望ましいとされた政策が、「豊かな国に追いつく」という面では有害となってしまうのである。
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