近年の国際的な資本移動の活発化を受けて、資本市場統合およびそれに対する政府の政策の効果について、さまざまな研究が行われてきた。こうした流れの中で、国々の違いを明示的に考慮して、どのような国が資本市場統合から利益を得、資本市場統合に対してどのような国の政府がどのように行動する誘因を持つのか、そして、その各国厚生への影響はどのようなものかを明らかにすることの重要性が認識されるようになった。しかし、既存研究では、人口規模の違いなどのごく基本的な要素しか考慮されておらず、産業構造の違いなど、より入り組んだ要素を考慮した分析が待たれていた。 本研究では、資源の豊富な国と資源の乏しい国とを考慮し、資本市場統合およびそれに対する政府の政策の効果を分析した。資源の有無は、当然のように、産業構造の違いを生み出す。この違いの効果を分析するため、資源を直接利用して中間投入財を生産する部門と、最終財を生産する部門との両方を表現でき、かつ資本移動に対する政府の政策を考慮できるモデルを構築した。 結果は次の通りである。資本市場統合は、資源の乏しい国から資源の豊かな国への資本移動を促す。こうした動きは世界全体での生産効率性を改善するが、その恩恵は資源の乏しい国に偏る。これに対して移動する資本に各国政府が課税を行う場合、資源の豊かな国が資本流入圧力を利用することで資本を失うことなく課税でき、資本移動による生産効率改善効果を奪って厚生を高めることができる。 以上の結果は、資源の乏しい日本にとって、資本輸出がその資源の不在を埋め合わせてくれる可能性を示している。加えて、そうした資本輸出先の国に対して、資本課税に関する協調を働きかけることが重要であることも示唆している。さもなければ、資本課税により資本輸出の利益を奪われてしまうためである。従って、資本課税に関する協調を実現するための施策も重要になる。
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