研究課題
特別研究員奨励費
フラボノイドの硫酸体は約250の植物種で発見されているが、これまでのところその生理機能は全く明らかにされていない。そこで、代謝工学的手法による食品成分硫酸体の大量合成法を用いて、フラボノイド硫酸体を合成し、その生理機能の検討を行った。SULTIA3を発現する大腸菌BL21にナリンゲニンを処理し、培地をダイヤイオンで精製した後、ナリンゲニン-7-sulfateを得た。合成したナリンゲニン硫酸体をシロイヌナズナ培養細胞T87へ処理し、その後蛍光ディファレンシャルニ次元電気泳動を行うことでプロテオーム解析を行った。ナリンゲニン処理区とナリンゲニン硫酸体処理区間において発現量に差異のあったタンパク質について質量分析計を用いてタンパク質の同定を行ったところ、発生過程、解糖系、アミノ酸代謝に関わるタンパク質が同定された。このことから、フラボノイドは硫酸化されることで、これらのタンパク質が関わる生理機能に影響を与えることが示唆された。次に植物体レベルでのフラボノイド硫酸体の生理機能について評価するため、ナリンゲニンあるいはその硫酸体を含有する培地に播種し、発生過程についてフェノタイプの観察を行った。その結果、ナリンゲニン処理区では、著しい主根の伸長抑制効果を示したが、ナリンゲニン硫酸体処理区ではその効果がキャンセルされていた。しかしながら、ナリンゲニン硫酸体処理区では根毛の異常な増加がみられ、ナリンゲニン処理区ではその効果は確認できなかった。以上のことから、ナリンゲニン硫酸体は根に対してアグリコンとは異なった生理活性を示し、表皮細胞の根毛への分化を促進している可能性が示唆された。本研究によりフラボノイド硫酸体がフラボノイドとは異なる生理機能をもつことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
重要な二次代謝物であるフラボノイドを指標に、植物における硫酸化の意義について手がかりを得られたため、おおむね順調に進展していると評価できる。
今後はその他の生理活性物質の硫酸体について評価し、植物体の成長促進や環境ストレス耐性を付与する機能性を見出すことで、農業とりわけ食糧増産や砂漠の緑化等への貢献が期待できる。
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