研究概要 |
前年度に確立した一軸性圧力(一軸圧)下での4端子電気抵抗および直流磁化の測定技術を用いて、反強磁性モット絶縁体Ca_2RuO_4への[110]_T方向一軸圧効果を明らかにした。そして、その結果を前年度に調べた[100]_T方向一軸圧効果と比較し、静水圧の場合よりも低圧で強磁性金属相(キュリー温度Tc~12K)を誘起できる点は共通しているが、[110]_T一軸圧を用いれば[100]_T一軸圧の半分の臨界圧力で金属相を誘起できることを示した。これらの結果は、面内一軸圧、特に[110]_T一軸圧が結晶中のRuO_6八面体の収縮歪みを解くのに有効なことを示唆している。収縮歪みの解消は、Ru214系の電子状態決定に重要なRuのd軌道の相対エネルギーを変化させ、xyバンドからyz, zxバンドへ電子を移動させて金属化を起こす。さらに、我々は[110]_T一軸圧の場合には磁化の強磁性成分の発達が2回に分かれて起きるという興味深い現象も見出した。この振舞は、斜方晶構造に起因して試料中にツインドメインが形成されること、および結晶への局所的な一軸圧効果を考慮すると自然に理解できる。これらの結果は、一軸圧を用いると圧力方向によって多彩な結晶構造および電子状態を誘起できるということを示している。 2次コイルを一軸圧セル中に設置する「ミニコイル法」での交流磁化率測定の技術を確立した。そして、スピン三重項超伝導体Sr_2RuO_4への面内一軸圧効果を調べ、超伝導転移温度T_cのオンセットが約1.5Kから3.3Kまで上昇することを明らかにした。この結果は、面内一軸圧によって結晶が4回対称から2回対称に変化したため、Sr_2RuO_4の超伝導秩序変数の軌道部分を構成すると考えられている2成分k_xとk_yの縮退が解けて、軌道1成分の超伝導相が出現したためと考えられる。そのため、本成果はSr_2RuO_4の超伝導秩序変数の決定に寄与するものである。さらに、秩序変数多成分の超伝導体に秩序変数一成分の新奇超伝導相を誘起しうるという一軸圧の効力を具体的に示したという点でも意義深い。
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