研究実績の概要 |
今年度主に取り組んだ課題は、初期ストア派における規則と正しい行為の関係を明らかにすることである。 研究の結果、行為の正しさを理性的な行為者の直観に帰する徳倫理学的な解釈も、状況に言及しない複数の対立しうる規則に帰する規則主義的な解釈も不十分であり、その行為が行われる状況のタイプによって行為の正しさは決定されると解釈するべきことが明らかになった。この成果は、川本愛「ストア派の倫理学における行為と規則について」『西洋古典学研究』63, 2015. 3. 11において出版されるとともに、第140回PHILETHセミナー(2014年6月)において、英語で口頭発表され、国外の研究者と意見を交わした。 さらに、この解釈にしたがってセネカの94、95書簡を解釈し、ストア派が教育において用いる「忠告(praecepta)」はタイプ別の状況における正しい行為を指示するものであるということを明らかにした。この成果は、第26回政治哲学研究会(川本愛,'The Stoic Natural Law: praecepta and decreta in Seneca's 94th and 95th Letters', 2014年8月)において口頭で発表され、主に近現代の政治哲学を専門とする研究者たちと意見交換した。 これらの作業を通じて、ストア派が従来考えられてきたよりも実践的な生の指針を示すことを企てていた可能性が見えてきた。今後は、ストア派が実践的な生をどのように論じたかをさらに研究したい。
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