研究課題
特別研究員奨励費
生分解性ポリマーの合成方法は微生物合成法と化学合成法に大別される。中でも代表的な微生物合成ポリエステルであるポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)に関する研究は盛んである。しかし、微生物合成法ではポリマー鎖末端の構造が明確なP3HBは得られない。一方で、化学合成では末端の構造を制御して官能基を導入することで、物性制御や改質のための共重合を行える。また、生分解速度の調整にはR/S比の変更も有効な手段である。そこで本研究では、P3HBの精密合成の達成を目的として、金属を含有しない有機触媒を用いることとした。昨年度、モノマーであるβ-ブチロラクトン(β-BL)は、スーパーブレンステッド酸の一種であるトリフリルイミド(HNTf2)を触媒として用いることにより重合可能であることを確認している。そこで本年度は従来用いられてきたジフェニルリン酸のフェニル基上にニトロ基を導入し、触媒系の拡大を行った。すると重合は比較的温和な条件下で進行し、ポリマーを得ることができた。以上の結果より、リン酸のフェニル基上への置換基導入は有効な手段であることが見出された。また、β-BLと比較して重合中の副反応が生じにくいラクチドの重合を行い、より汎用性の高い生分解性ポリエステルであるポリラクチドの合成を試みた。このとき、不斉点と電子求引性基を導入したリン酸触媒を用いて重合を行ったところ、エナンチオマー選択重合が進行しD体のモノマーがL体のモノマーより早く消費されることが判明した。以上の結果からリン酸の置換基を変更することで酸性度の調整や不斉点を導入することが可能となり、広範なモノマーの重合ならびにポリマーの立体制御が可能であることが明らかとなった。さらに置換基や重合条件の詳細な検討を行うことによって、P3HBの立体制御も今後は可能になると考えられる。
(抄録なし)
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