(1)ピラゾラトイリジウム触媒を用いた分子内ヒドロアミノ化の反応機構 C-Nキレート型ピラゾラト配位子を有するイリジウム錯体を用いたアミノアルケンの分子内ヒドロアミノ化反応の機構を、DFT計算や速度論実験により精査した。その結果、本反応の律速段階である基質の環化段階において、ルイス酸性の中心金属と塩基性ピラゾラト配位子がそれぞれ基質のアルケン部位とプロトン性アミノ基を同時に活性化することで、反応を促進していることが明らかとなった。このような金属と配位子の協同作用による基質の活性化は従来のヒドロアミノ化触媒とは一線を画する新たな機構であり、今後更なる高活性触媒の開発につながることが期待される。 (2)6員環キレートピラゾール錯体の合成と反応性 C-Nキレート型ピラゾール配位子にメチレン基を導入することでキレート環を6員環へと拡大した新たなピラゾール錯体を合成し、その反応性を従来の5員環キレート錯体と比較した。6員環キレートピラゾール錯体は5員環キレート錯体と同様に、塩基と反応して配位不飽和のピラゾラト錯体を生じることが明らかとなった。しかし生成したピラゾラト錯体は、(1)水の速やかな脱プロトン化によるヒドロキソ架橋架橋二核錯体の生成、(2)ニトリルへの水の求核付加の促進といった、5員環キレート錯体にはみられない反応性を示した。これらの反応性は、キレート環の拡大によりピラゾラト配位子上の塩基性窒素原子が中心金属により接近し、金属と配位子の協同作用がより効果的にはたらくようになったことによって発現したものであると考えられる。 以上のように、ピラゾラト錯体の中心金属と配位子の協同作用を利用することで高効率な触媒反応を実現できること、またピラゾラト配位子の立体構造の制御によりその反応性を変化させることが可能であることを見いだした。
|