研究概要 |
本研究では、炎症部位認識リガンドを導入したPEG脂質をヒト間葉系幹細胞(hMSC)表面に修飾することでhMSCの炎症組織への接着を促すことを目指している。今年度はリガンド修飾の効果を評価するため、①流れ場におけるhMSCの接着能評価法の確立、②PEG鎖分子量がhMSCの接着能におよぼす影響の検討、③ペプチド導入PEG脂質修飾hMSCの接着能評価に取り組んだ。 ①実際の血管内に近い流れ場においてhMSCの接着能を評価するため、底部にヒト肝類洞血管内皮細胞(hLShE)を接着させたフローチャンバー内に一定流速で蛍光標識したhMSCを流し、hLSME上を移動するhMSCの平均移動速度と移動速度の経時的変化から接着能を評価する方法を確立した。 ②昨年度の研究から、高分子量PEG鎖を有するPEG脂質を修飾すると、PEG鎖分子量および修飾量の増大に伴ってhMSCの接着能が低下することが明らかとなった。そこで、2,6,12,24のEG unit(分子量 : 88,264,528,1056)をもつ短鎖PEG脂質を合成し、修飾量と共培養後の接着能の相関を検証し、EG2量体をもつPEG脂質は修飾量が増大しても、接着能が低下しないことを明らかにした。 ③炎症組織に特異的に高発現する接着関連分子であるICAM-1に特異的に結合するペプチドをEG2量体をリンカーとして脂質に化学結合したペプチド導入PEG脂質を合成した。また、TNF-αを含む培養液中で培養することで、hLSMEにおけるICAM-1の発現が向上することを免疫染色によって確認し、このhLSMEを炎症モデルhLSMEとして用いることとした。ペプチド導入PEG脂質を修飾したhMSCの炎症モデルhLSMEとの共培養後の接着能を評価したところ、ICAM-1認識配列アミノ酸修飾群は、未修飾群、Reverse配列修飾群と比べて移動速度が小さい細胞が多く存在しており、平均移動速度の中間値も小さかった。以上の結果から、hMSCに対するPEG脂質を介したペプチド修飾によって炎症モデルhLSMEへの接着能が増強されることが示された。
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