研究実績の概要 |
今年度は、還元反応の触媒部位となるテトラピリドフェナジン (tpphz)配位子、および支持配位子として剛直な2,2’-ビピリジン (bpy)を有するRu(II)錯体を、触媒に用いて水素発生反応の検討を行った。この錯体を、水:メタノール混合溶媒に溶解し、電子供与体としてトリエチルアミンを加え、白色光 (380 - 670 nm)を照射した際に、発生した水素の量を測定すると、触媒希釈条件下では触媒回転数 (TON)が160回という比較的高い値を示した。また、tpphz配位子の末端に存在する空のフェナントロリン部位を、フェナンスレン構造に変更した類似錯体との比較を行うと、両者はほとんど変わらない水素発生効率を示したのに対し、[RuII(bpy)2(bpm)]2+を触媒に用いた場合には、水素がほとんど発生しなかったことから、触媒活性部位がtpphz配位子のピラジン部位であることが示唆された。この光触媒的な水素発生反応を行った際に、1H NMRスペクトルおよびUV-visスペクトルの変化は、tpphz配位子が還元されて、π共役系が縮小していることを示していた。この生成物は、水素発生反応の中間体であると考えられる。 また、Ru-tpphz錯体を用い、メタノールとホウ酸緩衝液を1:1で混合した溶媒中において、電圧を印加しながら、白色光を照射したところ、3時間でTONが51回という高い水素発生効率を示した。参照実験を行った結果、電圧の印加と光照射の両方を行っているときにのみ、水素が発生することから、この反応が光電解触媒反応であることが明らかになった。また、光照射時の電流量の増加率は、サイクリックボルタンメトリーにおける掃引速度に依存しないことから、この水素発生反応における律速段階は、電解による錯体の還元過程ではなく、後続の光反応過程であることが明らかとなった。
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