研究実績の概要 |
板材のプレス成形において、形状凍結不良や割れなどの成形不具合を高精度に予測するためには、計算で用いる材料構成式の高精度化が必須である。そのためには精緻な材料試験法が重要である。特にプレス成形における典型的な変形様式である曲げ・曲げ戻し変形では、材料は面内で引張/圧縮および反転負荷を受ける。したがって実際の成形に近い条件で板材の引張/圧縮特性(SD効果)・反転負荷特性(バウシンガ効果)を測定することが必要である。板材を長手方向に圧縮できる試験機は世界で4例あるが、いずれも静的かつ室温で使用する試験機である。実際のプレス成形では材料は0.1/s以上の速いひずみ速度で変形を受ける。さらに近年適用の拡大が進む高張力鋼板では、自身の加工発熱によって成形品の温度が100℃近くに達する場合がある。そのため、温度による変形特性変化を考慮したシミュレーション技術の実用化が求められている。 本研究では、SD効果及びバウシンガ効果に及ぼす温度の影響を明らかにするために、加熱機構を有する面内反転負荷試験機を製作した。自動車用冷延980MPa級二相組織高張力鋼板を供試材として、室温から200℃までの温間引張/圧縮試験及び面内反転負荷試験を実施した。まず, 引張と圧縮の特性であるが, 100℃までは変形抵抗が減少し、100℃から200℃にかけては再び変形抵抗が上昇する動的ひずみ時効が確認された. これはShahriary et al. (Mat. Sci. Eng. A, 550, 2012)が二相組織鋼について発表した傾向と同様であった。また、バウシンガ効果の温度依存性を明らかにするために温間面内反転負荷試験を実施した。Noma & Kuwabara (Steel Research International, Special Edition : 10th ICTP 2011)が提案した方法で反転負荷後のSS曲線を無次元化した。その結果、無次元化した曲線は一本の曲線には集約できず、温間領域におけるモデル化には課題を残した。
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