研究概要 |
本研究は、電気化学発光(ECL)を用いた新規の多色発光素子の実現を目的とする。ECL素子は溶液注入プロセスで作製可能な、生産性・コスト面で優位性を持つ新規発光素子である。申請者は交流電圧で駆動するECL素子の動作機構や特性向上についての研究を行なっており、今回は「交流ECLにおいて印加周波数を切り替えることで発光色を制御する機構」の実現を目指す。交流ECLによる発光色制御についての報告は本研究が初めてのものであり、また多色発光が可能な発光素子は産業的に高いインパクトを持つ。 この研究について、ルブレン(RUB)とジフェニルアントラセン(DPA)を溶解させた混合溶液系にて、黄色(@ 300 Hz)と白色(@ 1,000 Hz)の発光を、印加周波数によって可逆に切り替えることに成功している。しかし、この系では励起エネルギー移動などの副反応が異種材料間で生じるため、発光効率や輝度が低下してしまうことも同時に分かっていた。 この副反応過程を解析する実験の一環として、交流ECL駆動時の溶液中の物質の拡散挙動に対してデジタルシミュレーションを行った。シミュレーション用のプログラムは自作のものを利用した。その結果、これまで定性的な評価に留まっていた交流ECLモデルに対し、物質の拡散距離や生成種の失活度合い、副反応の起こりうる量などに対して定量性を持たせることに成功した。 また、副反応を防ぐ目的で検討を行ってきた「材料を電極上に固定したECLの系」に対する実験については、DNA/Ru (bpy)_3^<2+>組織体を利用した交流ECL素子について継続的な検討を続けた。溶液系ECL素子よりも圧倒的に高い周波数領域でECLを示すというユニークな特徴を有するこの材料であるが、一方でイオン交換膜にRu (bpy)_3^2を付与したものや、発光性の高分子材料を用いた別の電極固定系ではそのような挙動は見られないことが明らかとなった。これらの結果を比較し、現在この固定系について論文投稿の準備を進めている。
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