研究概要 |
今年度は、湛水土壌が落水(土壌面が大気に暴露された状態)した際に突発的に発生する亜酸化窒素(N_2O)の、土壌中における生成に寄与する微生物反応の特定を試みた。水田土壌を充填した土壌カラムを湛水とし, 100kgN/haの負荷で窒素を施肥した後に落水を開始し, 微小電極により土壌表層0~2cmのN_2O濃度およびO_2濃度を測定した。また、N_2Oの生成において重要な微生物反応である、硝化反応および脱窒反応の活性指標であるmRNAを深さ毎に計測し、N_2O生成位置の推定を行った。 その結果、落水から1時間以内に土壌深さ約10mmを最大濃度とするN_2O濃度分布が形成された。さらに、酸素濃度分布およびN_2O濃度分布に基づいて推定したN_2O生成速度分布を解析した結果、8-14mmの還元層におけるN_2O生成が示唆された。一方、N_2O生成に関与する機能遺伝子の現量(mRNA)量を深さ毎に測定したところ、硝化に関与する機能遺伝子(amo4)のmRNA量は、落水後徐々に増加した。一方、脱窒に関与する機能遺伝子(ntrKのmRNA量は落水6時間後において、深さ5-10mmにおいて落水前の10倍にまで急激な上昇を示した。土壌深さ0-5mmにおいて硝酸の生成が確認されたことから、落水後のN_2O生成は表層で生成した硝酸が還元的な下層に拡散し、脱窒を受けることで起こることが示唆された。さらに、還元的な土壌環境への硝酸の流入がnirKの発現およびN_2Oの生成を促すことを確認するために、嫌気土壌スラリーに硝酸を添加し、N_2O濃度、ntK mRNAの経時変化を追跡した。その結果、硝酸添加1時間後に、nir(f)K mRNA量が添加前の100倍に急増し、48時間後にはN_2Oの濃度の増加が確認された。 以上の結果から、落水後の水田土壌において、土壌表層の酸化層に存在するNH_4+が硝化反応によりNO_3 -に変化した後、拡散により還元層に移動する。還元層への硝酸の流入は、脱窒菌を活性化し、N_2Oが生成される、ことが示唆された。
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