研究課題
特別研究員奨励費
巫者を中心とした宗教体験の語りを通して、現代日本人の宗教観の歴史的変遷を明らかにすることを目的とした本研究では、従来のシャーマニズム研究の蓄積を踏まえながら、その成果を現代宗教論へと接続することを試みた。昨年度に引き続き津軽における巫者の調査を継続し、その成果から地域習俗ネットワークの一つの結節点としての巫者という新たな巫者観を指摘した。その上で、巫者の在り方や宗教体験の語りが直接的に地域習俗の変容と結びついていること、そしてその変化の具体相を明らかにすることができた。すなわち、身体的な行の実践が巫者的な力の獲得手段として一般的であった従来の巫者像に対して、現代の巫者たちにおいては、そうした巫者像を一部引き継ぎながらも、神秘体験が行によって故意に得られたものではなく、日常生活の中で偶発的に得られたものとして語る傾向が強くなっている。これには、巫者の代表的な行場であった岩木山北麓の赤倉霊場の衰退、および巫者の成巫過程における身体的な行の後景化という今日的状況が影響を及ぼしていると考えられる。また、集落に巫者を招いて行う村祈祷を主な事例としてその内容の変化についても詳細に検討した。さらに、巫俗のもつ動的な性格と現代性を明らかにするために、都市の「巫俗」の事例を分析し、彼女たちの存立を支えるメディアを介した情報ネットワークや人的つながりを指摘。信仰実践における個人の自律的な選択を過度に強調する従来のスピリチュアリティ研究や現代宗教論を批判しながら、彼/彼女たちが営む「ポップな」実践や語りは、彼らの生きる環境にとってもっとも妥当なものであり、その環境によって半ば強制的に「巫者」への道が決定づけられる従来の巫俗の在り方と変わりがないことを指摘した。またその点から津軽の巫俗と都市の「巫俗」を比較し、両者の質的差異とその原因について検証するという今後の研究への展望も開くことができた。
(抄録なし)
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Journal of Religion in Japan
巻: Issue 3.1 号: 1 ページ: 1-35
10.1163/22118349-00301001
宗教学比較思想学論集
巻: 14 ページ: 51-62
120005307229