iPS細胞を用いた心臓細胞治療は、重症心不全に対する新たな治療法として期待されている。しかし、その他の幹細胞移植治療と同様、投与細胞の生着率の低さが問題となっている。 そこで、iPS細胞由来分化細胞の移植後心臓生着における至適化を目的として、ルシフェラーゼを恒常的に発現するiPS細胞株を用いて、未分化iPS細胞、分化4日目中胚葉細胞、分化8、20、30日目分化心筋を免疫不全マウスの心臓に直接注入し、生着率をin vivo bioluminescence imagingにて定量化し、比較した。結果、分化20日目心筋がその他の分化細胞に比べ有意に高い生着率を認め、分化20日目心筋が生着における至適細胞だと考えられた。 そこで、分化20日目心筋を心筋梗塞モデルマウスに直接注入し、治療効果を確かめたところ、良好な生着と、有意な心機能改善を認めた。 さらに、生着後の経時変化を観察したところ、imagingシグナルの経時的増加を認め、組織所見上もKi67陽性生着心筋がin vitroに比べ有意に増加していた。この結果は、移植後生着心筋がマウス心臓内で増殖していることを示している。このimagingシグナルの増加は移植後3ヶ月にてプラトーに達したが、組織所見上は移植後3ヶ月から6ヶ月にかけての心筋成熟が認められた。以上のことから、iPS細胞由来分化20日目心筋は高い生着率、増殖能をもち、障害心筋に対する高い治療効果を有することが示唆され、今後の心臓細胞治療への応用が期待される。 今後は、今回のマウス実験での結果を踏まえて、至適分化心筋細胞を用いた大動物への移植実験を行い、マウスでの詳細な評価が困難である治療効果、不整脈原性を中心に臨床応用への可能性を追求していく予定である。
|